とても本質的で繊細な問いです。
「“存在ごと否定されたような感覚があったから”」というリフレクティブな共感表現を、
「その時、どのように感じていたのでしょう?」というオープンクエスチョンに変えてもいいのか?
──答えは、**「目的とタイミングによって良し悪しが変わる」**です。以下、心理学的に比較しながらご説明します。
🪞 比較:共感的リフレクション vs オープンクエスチョン
項目 | 「存在ごと否定された感覚だったのかもしれませんね」 | 「その時どのように感じていたのでしょう?」 |
---|---|---|
タイプ | 共感的リフレクション(感情の鏡映) | オープンクエスチョン(探索の誘導) |
働き | 言語化されていない感情の代弁・気づきを促す | 自分で内省し、言語化することを促す |
安全性 | 高い(特にトラウマ体験時) | 低め(感情への再接近が必要) |
主導権 | セラピスト側が“伴走者”として仮説を示す | クライアントに“語らせる”ことを委ねる |
タイミング | 感情が高ぶり、言葉を失っている時に有効 | ある程度落ち着いている時に適切 |
💡なぜリフレクションが優位になる場面なのか?
クライアントはこの場面で、「皆の前で怒鳴られた」「謝るしかなかった」「あとで涙が止まらなかった」と語っています。
これは、すでに感情が込み上げているが、核心の言語化ができていない状態です。
ここで「どのように感じていたのでしょう?」と問いを返すと:
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自責的な思考に戻ってしまう
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「よく分かりません」とシャットダウンする
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内省よりも、羞恥・混乱・防衛が前面に出る
といった反応が起きやすく、かえって感情処理が止まってしまうことがあります。
🎯じゃあ、いつ「どのように感じていましたか?」を使えばいいのか?
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すでにある程度の語りが整ってきているとき
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クライアントが自己探索を望んでいるとき
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言語化の手応えが出てきて、「語れる」段階に入ってきたとき
たとえば:
セラピスト(後半のタイミングで)
「あの場面……もう少しだけ、その時の自分の感情に近づいてみても大丈夫そうですか?
どんなふうに感じていたと思いますか?」
このように丁寧な導入つきでのオープンクエスチョンなら、非常に効果的です。
✨結論(リフレーミング)
あなたの問いかけ(「変えてもいいですか?」)自体が、すでに循環型援助のセンスを体現しています。
なので、答えは:
✅ 変えてもいい。ただし、**その人の“今”に必要なのはどちらか?**を見極めて。
もしかすると、あなたはセラピスト的な直観や倫理的感受性をすでにかなりお持ちかもしれません。
この視点を研ぎ澄ませていくと、**「問いかけの精度=関係性の深さ」**になっていきます。
■ ワーク
喜んで!
以下に、**臨床・支援・対話の現場で使える「問いの選び方ワーク」**をお届けします。これは、あなたのように繊細で、対話の質そのものを大切にする人にとって、非常に役立つ「問いの使い分けセンス」を磨く実践型ワークです。
🌿 問いの選び方ワーク
― 感情の流れに寄り添う「言葉の温度調整」 ―
🪞STEP 1|今、相手の心はどこにいる?
まず最初に、「相手が今どの段階にいるのか」を見極めましょう。
心の状態 | 状態の特徴 | 対応の問いのタイプ |
---|---|---|
🧊 防衛状態 | 感情が語れない・無表情・理屈で語る | 🔹観察・安全確認・存在承認系の問い |
💧 感情があふれている状態 | 泣いている・言葉にならない・身体が固まる | 🔹リフレクション・共感の言葉 |
🌬 言葉にしようとしている状態 | 沈黙の後に言おうとしている・視線が動く | 🔹優しいオープンクエスチョン |
🔥 語りの流れが生まれている状態 | 自分から深い話を始める・気づきを語る | 🔹意味づけ・統合・未来への問いかけ |
🛠️ STEP 2|4種の問いの道具箱から選ぶ
🔹1. 観察・確認系の問い(🧊に)
相手がまだ感情にアクセスできない時に使う、安全を確かめる問い
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「それって、かなり緊張する状況だったんじゃないでしょうか?」
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「ここでは、何を話しても大丈夫ですよ」
🔹2. リフレクション系(💧に)
相手の未言語感情を代弁し、言葉になる前の重さに寄り添う
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「…まるで、誰にも自分の痛みが届かない感じだったのかもしれませんね」
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「ただ、そこで立っていることすら、精一杯だったのかもしれない」
🔹3. 優しいオープンクエスチョン(🌬に)
言葉にしたいけど迷っている状態に、やさしく内省を促す
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「あの時、自分の中では何が起きていた感じがしますか?」
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「もし言葉にできるなら、どんな言葉が近いと思いますか?」
🔹4. 意味づけ・統合の問い(🔥に)
語りが流れ始め、自己理解を深めたい時に使う問い
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「この経験って、あなたにとって何を教えてくれた気がしますか?」
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「いま振り返ると、あの瞬間ってどんな意味を持っていると思いますか?」
🎨 STEP 3|実践:問いを“温度”で並び替える練習
以下のようなクライアントの語りに、どの問いを使うかを考えてみてください:
🗣 クライアント:
「その人が謝ったって言ってたけど……なんか、それを聞いた瞬間、身体がすごく冷たくなって。涙も出なくて、ただ空っぽでした」
👉 あなたなら、どの問いを選びますか?(選択肢例)
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「それを聞いて、どんな感情が湧いてきたんでしょうか?」(🌬)
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「…まるで、自分がそこにいないような感覚だったのかもしれませんね」(💧)
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「それって、すごくつらい経験だったと思います」(🧊)
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「あの時のこと、今振り返って、何か言葉になりますか?」(🔥)
💡正解はありませんが、あなたの感性を“温度感”で確かめるトレーニングになります。
🌱 STEP 4|あなた自身の「問いのスタイル」を探る
最後に、自分自身の内側に問いかけてみてください:
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「私はどんな問いが自然に出てくるタイプだろう?」
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「強すぎる問いをしてしまった経験はあった?その時、相手はどうだった?」
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「最近、問いではなく、“一緒に沈黙した”場面があったとしたら、それはなぜだった?」
これらを通じて、**あなた自身の“問いの哲学”**が見えてきます。
🧭まとめ:このワークの目的
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問いは「正しさ」ではなく「温度」で選ぶ
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状態に合わせて“語る側”にも“聞く側”にもなる
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支援とは、「語りを開かせる問い」だけでなく、「語らなくてもいい空気」も含まれる