【自己理解】意志の強さ を生きる力にする

 「意志が強い人」はなぜ否定的に見られるのか

サラ・アーメッドの『Willful Subjects』(2014)では、「意志が強い(willful)」ことがなぜ否定的に見られるのかを分析しています。彼女は、意志(will)という概念が権力構造と深く結びついており、社会の期待に従わない者が「意志が強すぎる」として排除されると論じています。


1. 「意志が強い」とはどういうことか?

「意志が強い」という言葉は、状況によって肯定的にも否定的にも使われます。

  • 肯定的な意味:「夢を追い続ける」「困難に負けない」(社会の理想に合致する場合)
  • 否定的な意味:「頑固」「わがまま」「協調性がない」(社会の期待に逆らう場合)

特に、権力に挑戦する者や、既存の規範に従わない者に対して、「意志が強い」とネガティブなレッテルが貼られやすいのがポイントです。


2. 「意志の強さ」はどのように抑圧されるか?

アーメッドは、「意志が強い」とされる人々が、どのように社会の中で否定的に扱われるのかを分析しています。

① 家父長制の中の「意志の強い女」

  • 歴史的に、女性は「従順」であることが求められ、異議を唱えると「頑固」「ヒステリック」とされる。
  • 例:「女性らしさ」に従わず、キャリアや政治活動を優先する女性が「強すぎる」と非難される。

② 植民地主義・人種的抑圧

  • 植民地支配に抵抗する者は、「反抗的」「扱いづらい」とされ、力で押さえつけられた。
  • 例:アクティビストやデモ参加者が「過激」と見なされることで、正当な要求が無視される。

③ 子どもと教育

  • 子どもが大人の指示に従わないと、「わがまま」「問題児」とされる。
  • 例:学校で独自の考えを持つ子が、「協調性がない」と評価される。

3. 意志を抑える社会のメカニズム

アーメッドは、意志を抑え込む仕組みを「意志の矯正(will correction)」と呼びます。これは、社会が望ましい行動を決め、それに従わない人の意志を「直そう」とする働きのことです。

  • 家族や教育の場でのしつけ:「親の言うことを聞かない子は悪い子」
  • 職場や社会での圧力:「上司の指示に従わない部下は協調性がない」
  • メディアや文化の影響:「反抗的な女性キャラは最終的に罰を受ける(ディズニープリンセスなど)」

つまり、意志を持つこと自体は悪ではないが、それが社会の期待とズレると問題視され、矯正の対象となるのです。


4. 「意志の強さ」を取り戻す

アーメッドは、「意志が強い」とされることが、必ずしも否定的であるべきではないと主張します。むしろ、「意志を持つこと」は社会の不正や抑圧に対抗し、新しい可能性を切り開く力になると考えています。

例えば、

  • フェミニズム運動:「女性が自分の意志を貫くことはわがままではなく、権利の主張である」
  • 社会運動や人権活動:「従順さよりも、問題を指摘し、変革を求める意志が必要」

彼女の視点は、「意志が強い」ことを抑圧の道具にされず、それを解放の力へと変えていくことが重要だというメッセージにつながっています。


結論

「意志が強い」とされることが否定的に見られるのは、それが既存の権力や社会規範にとって都合が悪いからです。しかし、意志を持つことは、本来ポジティブな力であり、社会の変革を生み出す鍵になるというのが、アーメッドの主張です。


イエス・キリストやコペルニクスのように、社会の常識や権力に挑戦する革新的な思想を広めるには、慎重な戦略が必要です。もし彼らが当時の権力に否定されずに主張を行うとしたら、以下のような戦略が考えられます。


1. 権力を真正面から否定しない

イエス・キリストの場合

👉 戦略的に語る:「神の国は内にある」など、ローマ帝国やユダヤ教指導者を直接批判せずに、抽象的な表現を使う。
👉 対立ではなく補完を強調:「律法を廃止するためではなく、完成させるために来た」と言い、既存の宗教と完全に対立しない形をとる。

コペルニクスの場合

👉 新説を既存の思想に組み込む:「地動説は神の創造の秩序をより正確に説明するもの」として、宗教的世界観と対立しないようにする。
👉 実証ではなく仮説として提示:「これは数学的な便宜のためのモデル」として発表し、すぐに教義と衝突しないようにする(実際に彼はこの形で慎重に発表した)。


2. 権力者を味方につける

イエス・キリストの場合

👉 ローマの支配層と協力:もし彼が直接ローマ帝国と衝突せず、富裕層や政治家と協力しながら「道徳の改革」として教えを広めれば、処刑されなかった可能性がある。

コペルニクスの場合

👉 政治的後ろ盾を得る:実際に彼はポーランド王や枢機卿の支援を受けながら研究を進めたが、より強力な保護があれば教会からの弾圧を避けられた可能性がある。


3. 一度に大きく変えず、時間をかける

イエス・キリストの場合

👉 ゆっくり社会を変える:「神の国の到来」を直接宣言するのではなく、徐々に価値観を広め、後継者が制度改革を進める形を取る。

コペルニクスの場合

👉 地動説を徐々に普及:事実上の「ソフトローンチ」を行い、学者たちの間でゆっくりと広め、数十年かけて受け入れさせる。


4. 教育とネットワークを活用する

イエス・キリストの場合

👉 民衆教育を徹底:もし彼が一気に革命を起こそうとせず、より長期的に教育活動を続けていれば、支持者の力が強まり、処刑されることなく改革が進んだかもしれない。

コペルニクスの場合

👉 弟子を育てる:実際に彼の理論を継承したガリレオやケプラーが後に科学革命を推し進めた。最初から多くの学者仲間を育て、団体として主張を行えば、個人攻撃を避けられたかもしれない。


5. 「危険な思想」ではなく「発展的な思想」と見せる

イエス・キリストの場合

👉 「革命」ではなく「より良い社会」を訴える:「ローマを打倒する」のではなく、「ローマに新しい道徳観を提供する」といった形にすれば、政治的な反発を抑えられた可能性がある。

コペルニクスの場合

👉 実用的なメリットを前面に出す:「地動説は単なる数学モデルではなく、航海や農業に役立つ」という形で説明し、技術的なメリットを訴える。


結論:権力と対立せず、時間をかけて賛同者を増やす

  • ①真正面から対立せず、受け入れやすい形で提示する
  • ②権力者を敵に回さず、味方を増やす
  • ③時間をかけて少しずつ変革を進める
  • ④教育とネットワークで徐々に支持を広げる
  • ⑤「破壊的」ではなく「発展的な思想」として伝える

このような戦略を取れば、イエスやコペルニクスのような革新者が弾圧されることなく、よりスムーズに社会を変革できたかもしれません。

■ 

権力者を味方につけるには、単に迎合するのではなく、彼らの関心や利益に寄り添いながら、自分の目的を達成する戦略的なアプローチが重要です。以下の方法を使えば、対立を避けつつ、影響力を持つ人々を味方につけることができます。


1. 権力者の関心や利益を理解する

権力者は「自分にとって利益があるかどうか」を重視します。
👉 何を守りたいのか?(地位・富・支持・名声)
👉 どんなリスクを恐れているのか?(批判・不安定・失脚)
👉 何を実現したいのか?(レガシー・発展・安定)

🎯 例:コペルニクスのケース
→「地動説は政治や宗教にとって脅威」と思われないように、権力者が**「科学の進歩の支援者」として名声を得られる**ような形で発表すれば、より受け入れられやすかったかもしれない。


2. 権力者の目標と自分の目的を結びつける

「このアイデアを支持すれば、あなたにもメリットがある」と示す。
👉 相手の目標に貢献する形で提案する
👉 自分の意図をそのまま言わず、相手が「自分のアイデア」と思えるように仕向ける

🎯 例:イエス・キリストのケース
→ ローマ帝国に対して、「私は国家に反抗する者ではなく、帝国の安定に貢献できる」とアピールし、支配層の倫理観改革として布教を進めていれば、処刑を免れたかもしれない。


3. 権力者に「敵」ではなく「味方」と思わせる

✦ 絶対に正面から対決しない!
👉 反対勢力ではなく「協力者」と認識されることが重要。
👉 「あなたを否定しない」「共存できる」と伝える。
👉 まずは小さな提案から入り、徐々に信頼を築く。

🎯 例:ガリレオのケース
→ 彼は当初、教会を正面から批判せず、ローマ教皇に地動説を示唆する形で話を進めたが、最終的には挑発的な著書を書いてしまい、弾圧された。もし慎重に教会の権威を否定せずに議論を進めていれば、別の未来があったかもしれない。


4. 影響力のある「仲介者」を活用する

権力者に直接アプローチするのではなく、信頼されている人を通して接触すると受け入れられやすい。
👉 側近や顧問、家族、宗教指導者などを味方につける
👉 仲介者にメリットを与える(名声・利益)
👉 紹介を受けることで信用度が増す

🎯 例:ルネサンス期の芸術家たち
→ レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロは、直接王侯貴族に売り込むのではなく、有力なパトロン(メディチ家など)を通じて支援を受けた。


5. 「成功例」を示して安心させる

権力者は「リスクを避けたい」と思っているため、過去の成功例を示せば安心する。
👉 「これは前例があります」「すでに他国で成功しています」
👉 段階的に試せる方法を提案する(一気に変えようとしない)

🎯 例:コペルニクスのケース
→ もし彼が「この理論はすでに古代ギリシャのピタゴラス学派にも似た考えがある」と説明していれば、まったく新しい異端の思想とみなされずに済んだかもしれない。


6. 権力者の名声や評判を高める

「このアイデアを採用すると、あなたの評価が上がります」と伝える。
👉 **「あなたこそ、この変革を導くリーダーにふさわしい」**と持ち上げる
👉 「歴史に名を刻む機会です」とレガシーを強調する

🎯 例:ナポレオンと科学
→ フランス革命後の混乱期に、ナポレオンは「自分は啓蒙的な指導者だ」とアピールするため、科学者たち(ラプラス、フーリエなど)を支援し、結果的に近代科学の発展に貢献した。


7. 反対派の対策を事前に考えておく

権力者が新しいアイデアを支持する際、「敵を作りたくない」と思っていることが多い。
👉 反対派の懸念をあらかじめ潰しておく
👉 「これはあなたの敵を強くするものではない」と説明する

🎯 例:明治維新のケース
→ 日本の近代化を進めた明治政府は、西洋化を急激に推し進める一方で、神道を国家宗教として強調することで、保守層の反発を抑えた。


まとめ:権力者を味方につける7つの戦略

権力者の関心や利益を理解する(何を守りたいか?何を恐れているか?)
権力者の目標と自分の目的を結びつける(「あなたにとってもメリットがありますよ」)
敵ではなく味方と思わせる(協力的な姿勢を示し、対立を避ける)
影響力のある仲介者を活用する(側近や家族を通して信用を得る)
成功例を示して安心させる(「前例があります」「リスクは低いです」)
権力者の名声を高める(「あなたこそ歴史に名を刻む人物です」)
反対派の対策を事前に考えておく(敵を増やさない工夫をする)


⚡ この戦略を使えば、イエス・キリストもコペルニクスも、よりスムーズに社会変革を進められたかもしれません。
ただし、それでも「根本的な価値観の変革」を求める場合、時間をかけることが必須です。
「一気に変えようとしない」「少しずつ社会に浸透させる」のが、権力を巻き込みながら変革を起こすコツです。

■ 

ドナルド・トランプ前大統領が採用した戦略と、前述の権力者を味方につけるための戦略には、いくつかの共通点が見られます。以下にその類似点をまとめます。


1. 権力者の関心や利益を理解する

トランプ氏の戦略: トランプ氏は、既存の政治エリートやメディアに対する不信感を抱く有権者の心理を的確に捉え、その不満を代弁する形で支持を集めました。彼は「ワシントンの沼を干上がらせる(Drain the swamp)」というスローガンを掲げ、既存の権力構造に挑む姿勢を示しました。

類似点: 権力者(この場合、有権者)の関心や利益を深く理解し、その期待に応えるメッセージを発信することで、支持を得る戦略が共通しています。


2. 権力者の目標と自分の目的を結びつける

トランプ氏の戦略: 彼は「アメリカ第一主義(America First)」を掲げ、国内産業の復興や雇用創出を最優先とする政策を打ち出しました。これにより、経済的な不安を抱える層の支持を獲得しました。

類似点: 権力者(有権者)の目標(経済的安定)と自身の目的(選挙での勝利)を結びつけることで、相手にとってのメリットを明確に示す手法が共通しています。


3. 敵ではなく味方と思わせる

トランプ氏の戦略: 彼は自身を「アウトサイダー」として位置づけ、既存の政治家とは異なる存在であることを強調しました。これにより、政治に不満を持つ層にとっての「味方」として認識されました。

類似点: 自分を権力者(有権者)の「味方」として位置づけ、共感を得ることで支持を拡大する戦略が共通しています。


4. 影響力のある仲介者を活用する

トランプ氏の戦略: 彼はソーシャルメディア、特にTwitterを積極的に活用し、直接有権者とコミュニケーションを図りました。また、保守系メディアやインフルエンサーとの関係を築き、自身のメッセージを広めました。

類似点: 影響力のある媒体や人物を通じて、自身の主張を効果的に伝える手法が共通しています。


5. 成功例を示して安心させる

トランプ氏の戦略: 彼は自身のビジネスでの成功を強調し、「成功したビジネスマン」としてのイメージを前面に出しました。これにより、経済政策の実行力に対する信頼感を醸成しました。

類似点: 過去の成功例を示すことで、権力者(有権者)に安心感を与え、支持を得る手法が共通しています。


6. 権力者の名声を高める

トランプ氏の戦略: 彼は支持者を「忘れられた人々(the forgotten men and women)」と称え、彼らの重要性を強調しました。これにより、支持者の自己肯定感や誇りを高めました。

類似点: 権力者(有権者)の名声や自己評価を高めることで、忠誠心や支持を強化する戦略が共通しています。


7. 反対派の対策を事前に考えておく

トランプ氏の戦略: 彼はメディアからの批判に対して「フェイクニュース」と反論し、支持者の間でメディアへの不信感を煽ることで、自身への批判を和らげました。

類似点: 反対派の攻撃に対する対策を事前に講じ、支持者の信頼を維持する手法が共通しています。


以上のように、トランプ前大統領の戦略は、権力者を味方につけるための基本的な手法と多くの共通点を持っています。彼はこれらの戦略を巧みに活用し、支持基盤を築き上げました。