TA(交流分析:Transactional Analysis)におけるコントラクト(契約)とは、クライエントとセラピスト(またはコーチ、カウンセラー)が明確な目標や合意事項を設定することを指します。これは、TAのアプローチの中で非常に重要な概念であり、クライエントが主体的に変化を生み出すための土台になります。
コントラクトの目的
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明確なゴールを設定する
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例えば、「自分の感情を適切に表現できるようになる」「過去の脚本(ライフスクリプト)から自由になる」といった目標を設定します。
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対等な関係性を築く
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TAは「大人(Adult)」の状態を重視するため、セラピストとクライエントが対等な立場で取り組むことを前提とします。コントラクトを通じて、セラピストが一方的に指示するのではなく、クライエントが自らの変化に責任を持つ形になります。
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行動の枠組みを明確にする
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「どのような方法で進めるか」「どのくらいの期間か」など、実際のプロセスも明示します。
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コントラクトの種類
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行政的コントラクト
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セッションの頻度、料金、守秘義務など、実務的な取り決め。
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専門的コントラクト
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どのようなTAの理論や技法を使うか(例:エゴグラム分析、ゲーム分析、ライフポジションの再評価など)。
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心理的コントラクト
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クライエントが無意識的に持っている期待や、隠れた抵抗に関するもの。例えば、「本当に変わる気があるのか」「変化への恐れがあるのか」といった点も含まれます。
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コントラクトの具体例
例えば、あるクライエントが「職場で人に頼ることができない」と悩んでいる場合、次のようなコントラクトを作成できます。
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目標:3ヶ月以内に、職場で1日1回、誰かに小さなお願いをすることを試みる。
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方法:エゴグラム分析を用いて、自分の「親・成人・子ども」のバランスを理解し、適切な表現方法を学ぶ。
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役割分担:
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クライエント:実際に行動を試す
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セラピスト:適切なフィードバックとサポートを提供する
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コントラクトの重要性
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「何を達成したいのか」が明確でないと、セッションが単なるおしゃべりになりやすい。
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クライエントが主体的に関与することで、変化が持続しやすい。
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目標が明確なので、進捗を測定しやすい。
TAの基本理念である「OK-OKポジション(お互いに価値のある存在である)」を活かしながら、具体的な変化を生み出すための仕組みとして、コントラクトは非常に重要な役割を果たします。
あなた自身がコントラクトを作るとしたら、どんな目標を設定したい?
■ 1. コントラクトの導入(目的の明確化)
✅ 目的:クライエントに「何を達成したいのか?」を考えてもらう。
🗣 言葉がけ:
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「今日の時間をどんなふうに使いたいですか?」
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「このセッションを終えたときに、どんな気持ちになっていたらいいですか?」
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「もし理想の変化が起きるとしたら、それはどんなものですか?」
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「今、一番変えたいことは何でしょう?」
2. 具体的な目標設定(SMARTの原則を活用)
✅ 目的:目標を具体的・測定可能にする。(SMART=具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限付き)
🗣 言葉がけ:
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「その変化が起きたとき、何がどう変わっていますか?」
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「それを実感するためには、どんな小さなサインが見えるでしょう?」
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「どのくらいの期間で、それを達成したいですか?」
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「それを達成するために、今できる小さな一歩は何ですか?」
🎯 例:
× 曖昧な目標:「もっと自信を持ちたい」
✅ 具体的な目標:「1ヶ月以内に、ミーティングで1回以上、自分の意見を発言する」
3. クライエントの主体性を引き出す(責任の明確化)
✅ 目的:クライエントが「変化を起こすのは自分自身」と認識できるようにする。
🗣 言葉がけ:
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「この目標を達成するのに、どんなサポートがあると良さそうですか?」
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「私にできることは何でしょう?」
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「どんな場面で、つい元のパターンに戻りやすいと思いますか?」
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「もし途中で難しくなったら、どう対処できますか?」
4. セッションの合意形成(確認と契約)
✅ 目的:お互いに納得して、具体的な行動に移せる状態にする。
🗣 言葉がけ:
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「では、今日の話をまとめると、◯◯という目標に向かって、△△を試してみるということで合っていますか?」
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「この目標は、あなたにとって本当に意味のあるものですか?」
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「次回までにどんな行動を試してみたいですか?」
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「この契約を守るために、あなた自身ができる工夫はありますか?」
📜 例(実際のコントラクト文):
「私は、1ヶ月以内に職場で1回以上、自分の意見を発言します。そのために、まずは家で鏡の前で練習することから始めます。難しくなったら、無理せず『次回はどうするか考える』ことを大切にします。」