■「冷静な判断がチームの安全を守った女性クライマーの話」
背景:
Bさん(30代女性)は、男性中心の本格的なアルパインクライミングチームに所属していました。過酷な自然環境でのクライミングでは、経験豊富な男性クライマーたちが主導権を握ることが多く、Bさんの意見は軽視される場面がありました。これまでの経験から、Bさんは「男性は女性の意見なんて聞く気がない」と感じ、発言を控えがちでした。
出来事:
ある日、Bさんたちは標高の高い山でマルチピッチルートの登攀に挑戦していました。リーダーの男性クライマーは、「4ピッチ目(25m)」と「5ピッチ目(35m)」を一気にまとめて登ることで、時間を短縮しようと提案しました。しかし、使用していたのは50mのシングルロープであり、合計60mの連結は明らかに不可能でした。
Bさんは「この計画は危険だ」と直感しましたが、最初は発言をためらいました。しかし、落ち着いて状況を確認し、冷静にこう伝えました。
Bさん:「今の50mロープでは、4ピッチ目(25m)と5ピッチ目(35m)を連結するのは無理です。ロープが足りないので、途中で動けなくなります。安全のために、一度ピッチを区切って登りませんか?」
さらに、Bさんはロープの長さとピッチの距離を図で示し、具体的な代替案(安全なビレイポイントで一旦確保する方法)を提案しました。
結果:
Bさんの冷静で的確な指摘により、チームは無理な連結を避けて、予定どおり4ピッチ目と5ピッチ目を分けて安全に登攀を進めました。もしBさんの助言がなければ、途中でロープが足りず、危険な状況に陥っていたかもしれません。
登攀後、リーダーはこう言いました。
リーダー:「Bさんの冷静な判断がなければ、大きなトラブルになっていた。ありがとう。」
この経験を通じて、他の男性メンバーもBさんの意見の重要性を認識し、今後の計画や行動で積極的に意見を求めるようになりました。
Bさんの気づき:
「これまで、意見を無視されるかもしれないと思っていたけれど、正しい情報と冷静な伝え方をすれば、きちんと聞き入れられることもあるんだ」と自信を持つようになりました。
ポイント
- 冷静な状況判断と根拠に基づいた説明が、性別に関係なくチームの信頼を得る鍵となる。
- 安全性に関する意見は、立場に関係なく最優先されるべきである。
- 実体験の成功が、偏見を乗り越える力になる。
この事例は、Bさんのように「男性は女性の意見を聞かない」と感じている方に対し、適切に意見を伝えれば、チームの安全や成功に大きく貢献できることを示しています。
■ セルフセラピー
反省しない男性クライマーに対して、女性クライマーが冷静かつ建設的に伝えられる言葉を10個提案します。安全意識を高め、無用な対立を避けることを重視した表現です。
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「今回の登攀方法はロープの長さを考えると危険でした。安全を最優先に考えた判断が必要だと思います。」
→ 客観的に危険性を指摘し、感情的にならず冷静に伝える。 -
「結果的に問題は起きませんでしたが、もし途中で動けなくなったらどう対応していましたか?」
→ 具体的な状況を想像させて、安全への意識を促す。 -
「安全管理はチーム全員の責任なので、今後は事前に確認し合いませんか?」
→ 責任を個人に押しつけず、チーム全体の課題として提案する。 -
「経験が豊富でも、基本的な安全確認は誰にとっても大事だと思います。」
→ 経験を否定せず、基本の重要性を伝える。 -
「無理な計画が事故につながることもあるので、一緒に改善策を考えたいです。」
→ 責めるのではなく、協力して改善する姿勢を見せる。 -
「今後、同じ状況になったらどう判断しますか?話し合っておきたいです。」
→ 未来の行動について冷静に対話を促す。 -
「安全確認を怠ると、私たち全員に危険が及びます。慎重な判断をお願いします。」
→ チーム全体への影響を具体的に伝える。 -
「登攀は挑戦も大事ですが、安全が最優先です。無理は禁物です。」
→ 安全最優先の原則を穏やかに再確認する。 -
「もし私が同じ判断をしたら、どう思いますか?立場を変えて考えてみてほしいです。」
→ 相手に客観的に振り返るきっかけを与える。 -
「次回の計画では、ロープの長さやルートの確認を一緒に見直しましょう。」
→ 前向きな提案で、改善に向けた行動を促す。
これらの言葉は、相手を攻撃するのではなく、安全意識を高めるために冷静で建設的なコミュニケーションを取ることを目的としています。
■心的ダメージ
この出来事によって、女性クライマーが受ける可能性のある心の傷(心理的ダメージ)を5つ挙げます。これらは、軽視された経験や安全軽視の行動がもたらす心理的な影響です。
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意見を無視されたことによる自己効力感の低下
- 自分の正しい意見が軽視され、危険な状況が発生したことで、「自分の判断や意見には価値がない」と感じ、自信を失う可能性があります。
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チームへの不信感・孤立感
- チームの安全を守るために発言したにもかかわらず無視され、さらに反省もない態度に対して、「このチームでは自分は守られない」「ここにいても意味がない」と感じ、仲間から孤立しているように思うかもしれません。
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性別による偏見への怒りや無力感
- 「女性だから意見が軽視された」と感じた場合、性別による扱いへの怒りや、それに対してどうすることもできない無力感に苦しむ可能性があります。
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安全意識の欠如による恐怖や不安感
- 危険な状況が現実に起きたことで、「次も同じように無視されたらどうしよう」「このままでは事故が起きるかもしれない」と、登攀に対する恐怖や不安が強くなる可能性があります。
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チームでの発言や行動への萎縮
- 今後、正しいことを伝えようとしても「どうせ聞いてもらえない」「意見を言うことで関係が悪くなる」と感じ、積極的に意見を出したり行動することに対して萎縮してしまうかもしれません。
これらの心理的ダメージは、本人の安全意識やチーム活動への意欲に大きな影響を与える可能性があります。カウンセリングでは、これらの感情を丁寧に受け止め、自己肯定感の回復やチームへの信頼を取り戻すサポートが重要です。
コメント:たしかに全部思い当たる。
■セラピープラン
女性クライマーの心的ダメージ回復のためのセラピープラン
目的:
- 自己効力感の回復
- チームへの信頼の再構築
- 性別に関する偏見への対処
- 不安や恐怖の軽減
- 積極的な行動や発言への自信回復
1. 初期段階:安心感と感情の受容
目標:感情を整理し、心の安全基地を確立する。
アプローチ:
- ラポールの形成:安全で信頼できる関係性を構築し、安心して感情を表現できる環境を作る。
- 感情の言語化(エモーション・フォーカスト・セラピー):怒り、悲しみ、恐怖、無力感など、感じた感情を丁寧に言語化してもらう。
- 安心できる活動の導入:クライミングとは無関係なリラックスできる活動(自然散策、瞑想、ヨガなど)を提案し、心身の緊張を和らげる。
2. 中期段階:思考の再構築と安全管理スキルの強化
目標:偏った認知や思い込みを修正し、適切な行動と発言の自信を育てる。
アプローチ:
- 認知行動療法(CBT):
- 「意見を言っても無駄」「男性は女性の意見を聞かない」という思考の歪みを認識し、根拠に基づいた思考に書き換える。
- 実際に意見が受け入れられた過去の経験を振り返り、バランスの取れた視点を取り戻す。
- assertiveness training(自己主張トレーニング):
- 感情的にならず、冷静で効果的に意見を伝える方法を練習する。
- ロールプレイを通じて、異なる状況下での伝え方を体験する。
- 安全確認スキルの再確認:
- クライミングの安全管理についての知識やスキルを再確認し、確実な根拠を持って意見を伝える準備を整える。
3. 回復段階:行動の実践と自信の回復
目標:実際の場面で自信を持って行動・発言できるようになる。
アプローチ:
- 段階的曝露療法(不安の克服):
- クライミングへの参加頻度や状況を段階的に増やし、徐々に不安や恐怖心を和らげる。
- 最初は信頼できるメンバーとの練習から始め、徐々に大きなチーム活動に戻る。
- ポジティブな経験の積み重ね:
- 少人数での安全確認ミーティングや、クライミングの計画作成などに積極的に関わることで、成功体験を増やす。
- フィードバックの活用:
- 意見を伝えた際に得たポジティブなフィードバックや成果を振り返り、自己効力感を高める。
4. 長期的サポート:自己肯定感と信頼関係の維持
目標:長期的に安定した自己肯定感とチームへの信頼関係を維持する。
アプローチ:
- マインドフルネス瞑想:現在の状況に集中し、過去の出来事に囚われない思考習慣を育てる。
- 自己肯定感を高めるワーク:日記やポジティブリストを活用し、自分の成長や成果を可視化する。
- チーム内でのコミュニケーション強化:安全管理や意見交換の場で積極的に役割を担い、信頼関係を深める。
- 継続的なカウンセリング:必要に応じて定期的に面談し、心の状態や対人関係の変化を確認する。
セラピーの進行イメージ(3~6か月)
- 1~4週目:感情の受容と安心感の確立(週1回のセッション)
- 5~8週目:認知の再構築と自己主張トレーニング(週1回のセッション+課題実践)
- 9~16週目:段階的な実践とフィードバック(2週に1回のセッション)
- 17週目以降:フォローアップ(必要に応じた面談・相談)
最終目標
- 自分の意見や判断に対して自信を持ち、必要なときに冷静に伝えられるようになる。
- チームの一員として対等な関係を築き、安全意識を共有できるようになる。
- クライミングに対する不安や恐怖が軽減され、再び楽しめるようになる。
このセラピープランは、女性クライマーが心理的なダメージを乗り越え、再び自信を持って活動できるようになることを目指しています。