自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)とは?
自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)は、人間の動機づけを説明する理論であり、特に「内発的動機(intrinsic motivation)」と「外発的動機(extrinsic motivation)」の違いを明らかにしました。
この理論によると、人間は本質的に**「自発的に成長し、自己実現したい」という内発的な欲求を持っているとされます。そして、この内発的動機を高めるためには、以下の3つの基本的欲求(Basic Psychological Needs)**が満たされることが重要だとされています。
自己決定理論における3つの基本的欲求
基本的欲求 | 説明 | 例 |
---|---|---|
有能感(Competence) | 「自分はうまくやれる」という感覚を持ちたい | 新しいスキルを習得し、それが評価されると満足感を得る |
自律性(Autonomy) | 自分の意思で行動を決定したい | 自分で選んだ仕事や学習に対してモチベーションが高まる |
関係性(Relatedness) | 他者とつながり、理解されたい | 仲間やチームとの協力がやる気を高める |
この3つの欲求が満たされることで、人はより主体的に活動し、継続的な成長が促されると考えられています。
自発性を持たせるには、有能で、自立でき、見ているよ、と言われる必要があるということです。
「有能感(Competence)」とは?
1. 有能感の定義
有能感とは、「自分は環境に適応し、効果的に行動できる」という感覚のことを指します。
- 何かを学び、上達することで「できるようになった!」と感じる
- 努力した結果が評価されることで「自分は有能だ」と実感する
- 自分の能力を発揮し、成功体験を積むことで自己効力感(Self-Efficacy)が高まる
この有能感が満たされると、人はさらに努力し、スキルを磨こうとする内発的動機が高まります。
2. 有能感の具体的な特徴
✅ 1. 挑戦と成功のバランスが重要
- あまりに簡単な課題では成長を感じられず、有能感は得られない
- 逆に、難しすぎる課題では失敗が続き、無力感が生まれる
- **「少し難しいが、努力すれば達成できる課題」**が有能感を高める最適な条件
✅ 2. フィードバックが有能感を強化する
- ポジティブなフィードバック:「あなたの描いた絵はすごく細かいところまで表現されているね!」
- 具体的な評価:「このスケートの動き、以前よりもスムーズになっているよ!」
- 逆に、「すごいね!」といった漠然とした賞賛は、有能感を高める効果が薄い
✅ 3. 内発的動機の源になる
- 「上手になったからもっとやりたい!」という気持ちが生まれる
- 「もっと試行錯誤して、より良いものを作ろう!」という探究心が生まれる
- 一方で、外発的な報酬(例:賞金、順位)ばかりを求めると、有能感の内発的な効果が減少する(アンダーマイニング効果)
3. 有能感が満たされると?
- 自分のスキルに対する自信がつく
- さらに努力しようという内発的動機が生まれる
- 「私はやればできる」という**自己効力感(Self-Efficacy)**が高まる
- 成功体験を積むことで、挑戦への意欲が高まる
4. 有能感が不足すると?
- 自分には能力がないと感じ、**無力感(learned helplessness)**に陥る
- 失敗を恐れ、新しいことに挑戦しなくなる
- 「どうせ頑張っても意味がない」と思い、努力しなくなる
- 他人の評価に依存しやすくなる(例:「褒められないとやる気が出ない」)
5. 有能感を高める方法
✅ 1. 小さな成功体験を積む
- いきなり大きな目標を立てるのではなく、達成可能なステップに分ける
- 例:「最初の1週間は毎日10分だけ練習する」→「次のステップは新しい技を試す」
✅ 2. 具体的なフィードバックを受ける
- 「何がどう良くなったのか?」を具体的に伝えるフィードバックが効果的
- 「以前よりもコントロールが上手くなったね!」などの成長ポイントを指摘する
✅ 3. 挑戦的な課題を設定する
- 現在のレベルより少し難しい課題に挑戦することで、達成したときに有能感が得られる
- 「この技ができるようになったら、次はこの応用編をやってみよう!」
✅ 4. 他人と比較せず、自己成長に注目する
- 他人と比べるのではなく、「昨日の自分より成長できたか?」を基準にする
- 「前よりも滑らかにスケートできるようになった!」という実感を大事にする
✅ 5. 自分で決定し、行動する
- 「これをやりたい!」と自分で決めたことに取り組むことで、達成感が強くなる
- 例:「先生に言われたからやる」のではなく、「自分で決めた目標を達成する」ことで有能感が高まる
6. まとめ
- **有能感(Competence)**は、「自分がうまくやれる」という感覚を持つこと
- 有能感が高まると、内発的動機が強まり、さらなる挑戦につながる
- 適度な難易度の課題+具体的なフィードバックが有能感を育てる
- 成功体験を積み重ねることで、自信と自己効力感が高まる
- 逆に、有能感が欠如すると、無力感や挑戦回避の傾向が生まれる
👉 「私はやればできる!」と実感できる環境を作ることが、自己成長のカギ!